きみのひだまりになりたい


ひと休みしたら、連れて行ってあげる。
さあ、こっちだよ。


木本くんの手を引っ張り、下駄を鳴らした。焼きそばのことなど忘れ、階段を下っていく。軽やかな下駄の音とは相反して、スニーカーはあいにく足取りが重い。

最後の一段を越えたと同時に、ようやっと意味を理解できたのか、うしろで「はあ!?」と今日イチ腹から声を出す木本くん。なんだ、そんな声も出せるんだね、とどこか安堵した気持ちになりながらも、いちいち振り返りはしなかった。


ぴかっと曇天が光る。どでかい破裂音が背中を直撃した。思わず手の力が抜ける。その隙に木本くんが手を離そうとしたが、ぎりぎりのところで食い止めた。ぎゅうっと手を握り締める。


離さない。離したくない。あきらめがわるいって、いいかげんわかりきっているでしょう?




「会うって、なんで」


「過去とは十分すぎるくらい向き合ったでしょう? なら次は、今と、向き合わなくちゃ」


「でも……! お、おれは……会いたく」


「怖いよね」


「……っ」


「向き合う、って、ものすごく怖いと思う。でも……だから、わたしがいるの」


「は……」


「ごはんを食べるとき、ひとりよりふたりのほうがおいしく感じるみたいに、向き合うときも一緒なら少しは怖くなくなるよ。……たぶん」


「たぶんかよ」




だいぶ調子の戻ってきた言い返しに、ゆるやかに口角を持ち上げた。手を引っ張る感覚がなくなっていく。前進する速度がだんだんとそろっていく。少し速い。転ぶときは道連れだ。


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