闇に溺れた天使にキスを。



神田くんはおそらく、他の学年にもその存在が行き渡っていることだろう。

彼を知らない人のほうが少ないはずだ。


だからこの状況や、神田くんといることがバレてしまうのはあまり良くない。


わかっているけれど、会ってしまう私も私だ。


「じゃあ白野さんが読んだら感想聞かせて」
「えっ…」
「どうぞ。他には取るものとかある?」


彼がすぐ隣にやってきて、取った本を渡してくれた。


「これだけで大丈夫、です…!
ありがとう」

「どういたしまして」


ようやく顔を上げてお礼を言い、彼の表情を確認することができた。

相変わらず穏やかな表情。
見ている私が安心してしまうほど。


「あっ、佳奈恵(かなえ)から連絡きた!
ミーティング終わったって」

「早いね。じゃあもう行かないとじゃん」


その時聞こえた、生徒たちの声。
きっと勉強スペースの席に座っている3人の声だろう。

内容的に、3人とも帰るようだ。

先生も会議で今はいない。
つまりこれから、神田くんと───


ふたりきりになる。

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