闇に溺れた天使にキスを。
誤解
機嫌が良いのだろう、鼻歌が洗面所から聞こえてくる。
今にもスキップしてしまいそうなぐらいのテンションだ。
「マイハニー!準備はできたか…」
「その呼び方やめてよお兄ちゃん!」
今日は休日で、珍しくお兄ちゃんとお出かけする。
たまたまふたりとも観たい映画が同じだったからだ。
「だって今日は未央とデートなんだぞ」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで話すお兄ちゃん。
妹相手に何を言っているんだ。
「それに未央が俺のために…俺のためにフリフリのワンピースを……!」
キラキラと目を輝かせながら、私の服装をジロジロ見てくるお兄ちゃん。
もうこれは引くことしかできない。
「お兄ちゃんのためじゃないもん。
やっとワンピースが着れる時期になったの!」
梅雨が明け、本格的な暑さが訪れようとする7月上旬。
その上今日は天気もいいため、ワンピースを着ることにしたのだ。
日焼けを気にする私は、ワンピースの上に一枚、薄手のカーディガンを羽織る。
暑いけれど、日焼けしないためにこれぐらいは我慢しないといけない。