闇に溺れた天使にキスを。
「それでもこんなかわいい……ああ、かわいすぎる未央のワンピース……いや、すべてがもうかわいくて」
「……着替えてくる」
「嘘!嘘だから未央!ワンピースなんて興味ねぇなー、未央がかわいくてワンピースが廃れるぜ」
すごい棒読みな上に、今度は軽くワンピースをバカにしてくるお兄ちゃんを見て、思わずため息をつく。
「お兄ちゃんはさっきから洗面所で何してたの?」
いつもは私より早く洗面所を使い終えるお兄ちゃんが、今日は私より遅かったのだ。
「何って、髪にワックスしてた。
どうだ、かっこいいだろ!?」
自慢気に言われるけれど、それよりも気になることがあった。
「…もしかして、私なんかと映画行くだけでワックスとかしたの?」
「未央なんかと、じゃねぇ!未央だからだ!
未央と並ぶのにふさわしい人間に俺はなるんだ」
確かにワックスで髪をセットしているお兄ちゃんは、オシャレ感が増していた。
さらには容姿もいいため、かっこいいのはわかる。
けれどあまり気合を入れて欲しくなかった。
万が一クラスメイトにでも会えば、誤解されてしまう恐れだってある。
「私なんか全然魅力がないんだから、そこまで気合入れてもさらにお兄ちゃんが目立つだけだよ?」
「わかってないな、未央。
自分のこの天使のようなキュート姿を自覚すべきだ」
「…………」
ここまでシスコンがひどいと、もはや突っ込むことすら諦めてしまう。