闇に溺れた天使にキスを。



「嫌いなんて言うなよ。
そうだ、映画終わったら未央の好きなカフェに行こう」

「ほ、ほんと…!?」


私の好きなカフェ。

そこは、今いる場所から駅方面に歩いて五分ほどにある小さなカフェのことである。


お洒落な雰囲気で、とにかくそこのスイーツが美味しくてたまらない。

小さいカフェなのに、雑誌などの取材も入るほど。


「ああ、いいぞ。
好きなだけ食べていいからな」

「そ、それは悪いよ…全部奢ってもらってるもん」


映画代も、この食べ物や飲み物だって。
全部お兄ちゃんが払ってくれている。


「奢ってるんじゃない。愛しの未央に払わせるやつがおかしいんだ。その存在の尊さに俺はお金を払ってる」

「…………」
「てことでカフェ、決まりな」


嬉しそうにお兄ちゃんが笑うから、なんだか騙された気分になったけれど気にしないでおいた。


しばらくして、映画が始まる合図のように、私たちのいる館内が暗くなる。


「あっ、お兄ちゃん…」
「静かに。映画始まる」


見た感じは、いつもより落ち着きのあるお兄ちゃんの姿。

けれどお兄ちゃんは、館内の暗さを利用するかのように、私の手に自分の手を重ね合わせてきた。


まるで恋人がするようなこと。


「どうして手なんか…」
「未央が逃げないように」

「何言ってるの?お兄ちゃん、変だよ」
「シスコンだと言ってくれ」


ついには自分でシスコンだと認めたお兄ちゃんは、やっぱり外でも私への接し方はあまり変わらなかった。

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