闇に溺れた天使にキスを。
「お兄ちゃんは何も買わなくていいの?」
ショッピングが終われば、今度は私の行きたかったカフェへ目指して歩くけれど。
私のものばかり買ってくれたお兄ちゃんは、逆に自分のものを何ひとつ買わなかったから心配になる。
「欲しいものがないからなぁ。
というか未央の欲しいものが俺の欲しいものだから」
多分気を遣わないように言ってくれているのだろう。
けれど、すごく変態発言に近い気がする。
「こ、こんなに何着も買ってくれてありがとう…!」
「いいんだよ、全部未央に似合いすぎて…天使だ」
「天使じゃない。お兄ちゃんの目がおかしいの」
「俺、目はめちゃくちゃいいんだから間違いない。天使だ」
ここまで天使を連呼する人、初めて見た。
けれど何を言ってもお兄ちゃんは私を天使と言うため、言い返すことを諦める。
その時ちょうど信号が赤になったため、私たちは立ち止まって青になるのを待つ。
この信号を渡れば、もうカフェはすぐそこだ。
カフェに行くことが楽しみで、つい頬が緩みながら向こう側の歩道を眺めていたら───
視界の端に、ふたりの男女の姿が入った。
ドクンと、心臓が嫌な音を立てる。
見なければよかったと後悔するのは、もう少し後のことで。
間違いなく、そのふたりは───
神田くんと、そして彼が『華さん』と呼ぶ、宮橋先生の姿だった。