闇に溺れた天使にキスを。



神田くんはいつもの制服姿ではなく。

黒いスーツを身にまとい、高校生には見えないほどの大人姿だった。


そして宮橋先生も、ライトブルーのお洒落なドレスを着ており、髪も綺麗にセットされている。

側から見れば、美男美女の恋人同士。


息が苦しい。
胸がぎゅっと締め付けられるようで、息がしにくくなる。


ふたりは何やら話をしながら笑っていたかと思うと。
近くに停まってあった黒い車に乗った。

それも神田くんがエスコートするかのように、後ろの座席のドアを開け、宮橋先生が先に乗り込む。


その後に神田くんも乗り込み、車は発車した。

そんな彼は、当たり前だけれど。
まったく私の存在に気づかなかった。


ふたりの姿が見えなくなっても、胸が苦しくてたまらなくなって。


「……っ、お兄ちゃん、行こう」

その気持ちをかき消すようにして、涙が溢れないよう俯きながらお兄ちゃんに声をかける。


思わずふたりの姿を目で追っていたから、信号を一回飛ばしてしまった。


けれど、どうしてお兄ちゃんは信号が青になっても私に声をかけなかったのだろう。

それに今も、お兄ちゃんから反応はなく。


「お兄ちゃん?」

思わず顔を上げ、お兄ちゃんの名前をもう一度呼べば。

ぼーっとしていた様子だった彼が、はっと我に返ったかのようにして私のほうを向いた。

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