闇に溺れた天使にキスを。



「悪い、ぼーっとしてた。
信号青になったな、未央の大好きなカフェに行くぞ」


お兄ちゃんはぼーっとしていたらしく、私の様子に気づいていなかったようで安心する。

もし気づかれていたら、私はあの状況を受け入れて泣いていたかもしれない。


神田くんと宮橋先生が一緒にいたって。
それも、学校の時とは違う雰囲気をまといながら。

ふたりとも笑っていて、お似合いで。
私の存在がちっぽけに思えてくる。


神田くんを疑うようなこと、したくないけれど。
理由があったに違いないと、無理矢理思い込むけれど。

実は私と神田くんは付き合っていないんじゃないかと不安になる。


そんな重い気持ちのままカフェに行ったけれど、お兄ちゃんがそれを読み取ってくれたのか、あまり会話を交わすことはなかった。

いつもは大好きなパフェも、今日はまったく甘さを感じずおいしいと思わなくて。


逆に涙が滲んでしまう。

今までもずっと、神田くんと宮橋先生は関わりを持っていたとわかっていたけれど。


ふたりの関係を深く考えないようにして、不安な気持ちを隠すようにして。

ふたりから目をそらしていた私。


今だってそう。

ふたりの関係を気にしているくせに、神田くん本人になんて聞けない。


だって、怖い。
私の知らないふたりの関係を知るのが。

それから、神田くんに面倒くさがられるかもしれないと思えば───



いくら考えても答えは出てこなくて。

最後の最後に重い空気へと変わり、お兄ちゃんに申し訳ないと思いながらも帰路についた。

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