闇に溺れた天使にキスを。



そんなこと、あるはずないのに。

そもそもお兄ちゃんに抱きしめられたって、なんとも思わない。


けれど昨日の神田くんは違った。

少し触れられるだけで、ドキドキして、顔が熱くなって。
恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。


全て、初めての感情で。


「あれ、未央がおとなしいぞ」
「……っ、なんでもないよ」

「その反応、怪しい。何があったんだ?
お兄ちゃんに全部話しなさい」


小さい頃からずっと一緒にいたお兄ちゃんは、私の些細な変化にもすぐ気づいてしまうほどに鋭い。

悩んでいる時もすぐに気づいてしまうお兄ちゃんは、頼れる存在でもあったけれど今は話が違う。


「な、なんでもないよ……!」
「未央」

「ほ、本当になんでもないから…お腹すいた!」


顔を上げてお兄ちゃんを見つめれば、すぐに顔を背けられてしまう。

これも毎回お決まりのパターンでもあった。

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