闇に溺れた天使にキスを。



「だから拒否する権利なんてないの。
わかったらついてきて」


宮橋先生の声がいつもよりずっと冷たい気がする。

神田くんの前では敬語を使っているから、というのもあるかもしれないけれど。


どうすればいいのかわからなくなった私は、大人しく宮橋先生についていく。

そして連れてこられた場所は保健室で。



「拓哉さんと付き合ったんだってね?」

中へ入るなり神田くんの名前を口にされたため、どきりとした。


「……そ、そうです」
「あなたにそれが務まるのかしら?」


ゆっくりと顔を上げれば、宮橋先生に鋭い視線を向けられる。

明らかに私のことを良く思っていない表情。


「だってあなた、拓哉さんのこと何も知らないでしょう?
心に抱えているものも、何を背負っているのかも全部」

「え……」


胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に陥る。


宮橋先生の言葉通りで。
神田くんが抱えているもの、背負っているもの全部。

私は知らない───


「そんなにも中途半端なら、拓哉さんに関わらないでくれる?あなたは見合わない」


腕を組み、じっと冷たく見下ろされて。

何も返せなかったけれど、神田くんと関わるなだなんてそんなことできないと思ったから、首を小さく横に振る。


「……へぇ、それほど好きなの?」

少し感心したような声。
私だって簡単に彼を諦められない。


「好き、です…私は神田くんのことが」

「勘違いしてるかもしれないから言ってあげるけど、拓哉さんはあなたが初めてじゃないから」


まるで私の言葉を遮るようにして、少しきつめに話されたけれど。

うまく理解できなくて固まってしまう。

神田くんは私が初めてじゃない……それは、付き合うことがってことだろうか。


そう考えると苦しくて胸が痛んでいると、また宮橋先生が口を開いた。

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