闇に溺れた天使にキスを。
「かわいそうに」
眉を下げ、悲しそうな表情で私を見つめてくる。
それは明らかに同情だった。
「これ以上傷つかないためにも、あなたは離れたほうがいい。だから今日、ちゃんと話しておいで?」
私の頭に手を置いて、今度は優しい笑みを浮かべる宮橋先生だったけれど。
悪魔の笑いに見えた。
「今日、組長はあなたを家に呼んだ。だから拓哉さんにも会うでしょう?その時に言えばいいの」
先ほどの冷たい声とは違い、ずっと柔らかい話し方。
まるで別人のよう。
どうすればいいのだろう。
今の話を聞いて、私はどうしたいのだろう。
わからなくて、静かに涙を拭うことしかできない。
「そんなに泣く必要はないわ。
遊ばれていたんだって、怒ってもいいくらい」
だから今から準備をしましょうと言い、宮橋先生は私を保健室の中央にあるソファへと誘導した。
そこに座らされたかと思うと、ティッシュを差し出される。
「今からメイクするから、涙を止めましょうね。
大丈夫、あなたは何も悪くない」
子供をあやすように、語りかけられた。
態度の急変に頭が追いつかず、今の宮橋先生が本物なのかもしれないという錯覚すら起こしてしまう。
ただ今は宮橋先生の言う通り、涙を止めて素直にメイクをされた。
その後は渡された服に着替える。
普段絶対着ないであろう肩が完全に出ているオフショルトップスに、ショートパンツ。
こんな服装で組長に会っていいのかだなんて、考える余裕は今の私にはなかった。