闇に溺れた天使にキスを。



「はい、できた。
とってもかわいくできたわよ、白野さん」


私を見て嬉しそうに目を細めて笑う宮橋先生。
けれど本心は読めない。

ただじっと、見つめることしかできなくて。


「じゃあ裏門に行ってね、そしたら車が停まっているから。ただひとつだけ、約束があるの。

私がこんな風にあなたをメイクしたのも、着替えさせたのも全部、誰にも言ったらダメだからね?」


わかった?と念押しされたため、素直に頷く。

もうどうにでもなれって、少し投げやりになっていたのかもしれない。


そのため───

「……おい、白野!聞いてんのか?」


いつのまにか校舎裏を通り、裏門に来ていた私。

涼雅くんに肩を揺らされ、名前を呼ばれるまで意識が半分飛んでいた気がする。


「……涼雅くん、いたの?」
「いたってお前…大丈夫か?魂抜けてるぞ?」


そんな表現、冗談だろうけれど今は笑えない。
心に余裕がないのだ。


「とりあえず車に乗れ。
話はそれからだ」


そんな私を彼は車の後部座席に乗せた。
もちろん隣には涼雅くんが座る。

話ってなんだろうと思いつつ、なんとなく涼雅くんのほうを見れなくて俯いた。


それから間もなくして車が動き出す。


「……お前、制服は?」

数分ほど走ったところで、ようやく涼雅くんが口を開いた。


「……置いてきた」

宮橋先生に荷物になるだろうから預かっておくと言われたため、保健室に置いてきたのだ。


「はぁ、最悪だな。
服買ってる時間なんてねぇしな…」


すると涼雅くんは何やらため息をついたかと思うと、ブツブツとひとり言を呟いている。

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