闇に溺れた天使にキスを。



「なんでそんな格好してるわけ?」


その言葉に対し、ゆっくりと顔を上げる。
必然的に涼雅くんと目があったのだけれど───



「……っ」

なぜかすぐ逸らされてしまった。


「お前、本当にバカだな」
「…この服装、ダメ?」


組長に会うのだから、もしかしたら失礼な格好なのかもしれない。


「ダメも何も、その格好で他の男に会うのはナシだろ」
「他の、男…?」

「組長が気に入れば、お前は拓哉のものから組長のものに変わる。組長には絶対服従だから」


ゾクッとした。
絶対服従だなんて言葉が聞き慣れていなくて。

それに今、とても大事なことを言われた気がした。


もし組長に気に入られたら、私は神田くんではなく組長のものになる───?


「まあ拓哉が許さねぇだろうけど。大抵の男はそんな格好されたら誘われてるものだって、勘違いするだろうな」


今の格好が勘違いされる?

確かに大胆な格好かもしれないけれど、それはかわいかったり美人が着るからこそなのだ。

私なんかにこんな大胆な服は似合わない。


「それは涼雅くんも?」

大抵の男って言うから、なんとなく聞いてみただけなのに。


彼は少し顔を赤くして、顔を背けられてしまう。


「バッ……んなわけねぇだろ。
もう勝手にしろ」


どうやら彼なりの忠告らしかったけれど。
その意味を理解できなくて、最終的には素っ気なくされてしまう。


いつもなら特に気にしないはずなのに、今日はその様子に心が痛んで泣きそうなった。

どうやら私は、自分が思っている以上に弱っているらしい。


素っ気なくされただけなのに、“捨てられた”に近い捉え方をしてしまったのだ。

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