闇に溺れた天使にキスを。



「……は?お前、何泣きそうなって…」


私が黙り込んでしまったからだろうか。

すぐにこちらを向いた涼雅くんは、私を見るなり驚くようにして両目を見開いた。


「何か、あったのか?」


さっきの素っ気ない態度は何処へやら。
今度は優しく声をかけられる。

ダメだ、今の私は相当不安定。


それほど宮橋先生の話に衝撃を受け、苦しさのあまり今もまだ受け入れられていない。

神田くんは私のことを“ただの遊び相手”にしかみていないだなんて、そんなの嫌だ。


もし本当だとしたら、今までの言葉も全部嘘だって言うの?


「……っ」
「泣くなよ、化粧崩れんぞ…って崩れたほうがいいのか」


崩れたほうがいいだなんて、ひどいことをさらっと言ってのける彼。

けれど私は何ひとつ言い返すことができずに、ただ目に浮かぶ涙を必死でこらえていた。


「泣いてるだけじゃ伝わんねぇぞ?
超能力があるわけじゃねぇし」


正論を言う涼雅くん。
確かにその通りだとわかってはいるけれど。

もし話をして全部事実だったらと思うと、怖くて聞くことができない。


涼雅くんと神田くんは昔からの仲で、信頼関係が厚い。

そんな涼雅くんに認められてしまえば、“もしかしたら”という希望がなくなってしまう。


まだ信じていたかった。
遊ばれているわけじゃないのだと。

たくさんの女の人たちと深い関わりがあったということも、全部───


嘘だって、信じていたかった。

< 321 / 530 >

この作品をシェア

pagetop