闇に溺れた天使にキスを。
*
結局私は涼雅くんに話をすることができなかった。
逃げているとわかっているけれど、今日はもう何も考えたくなくて。
まだ頭が混乱する中、目的地に着いてしまう。
そこは和テイストの大きな家で、これが豪邸というものだろうかと思った。
木を主として造られた家の前には大きな庭があり、ししおどしの音が聞こえてくる。
敷地内へ足を踏み入れる前の壁には紋章が彫られてあり、これも涼雅くんの刺青と同じで虎を想起させるものだった。
「ここが神田家。
一応神田組の本部?になんのかな」
少し疑問の形で説明される。
ここが神田くんの家であり、本部となる場。
本来ならヤクザとは一生縁がないはずなのに───
私は今、確かにヤクザの世界へと足を踏み入れている。
「いくぞ」
涼雅くんが前を歩き、私がその後ろをついていく。
庭が大きくて広いため、家のドアにつくまで少し歩かなければならなかった。
それから涼雅くんは、慣れた手つきで家の扉を開ける。
中に入ればそこには───
「涼雅さん、本日もお疲れ様です」
明らかに危険だと思われる男の人とがふたり、玄関前に立っていた。
黒服姿の男の人の頬には、明らかに刃物でついたような傷痕が残っていて。
さらに同じ格好をしているもうひとりは、眼帯をしている。
「ああ。組長は?」
「居間で待っておられます」
「わかった」
涼雅くんは若頭の補佐だと言っていた。
年齢なんて関係ないと。
つまりここでは位が高い人。
彼はまだ高校生だというのに。