闇に溺れた天使にキスを。






結局私は涼雅くんに話をすることができなかった。

逃げているとわかっているけれど、今日はもう何も考えたくなくて。


まだ頭が混乱する中、目的地に着いてしまう。


そこは和テイストの大きな家で、これが豪邸というものだろうかと思った。

木を主として造られた家の前には大きな庭があり、ししおどしの音が聞こえてくる。


敷地内へ足を踏み入れる前の壁には紋章が彫られてあり、これも涼雅くんの刺青と同じで虎を想起させるものだった。


「ここが神田家。
一応神田組の本部?になんのかな」


少し疑問の形で説明される。
ここが神田くんの家であり、本部となる場。

本来ならヤクザとは一生縁がないはずなのに───


私は今、確かにヤクザの世界へと足を踏み入れている。


「いくぞ」

涼雅くんが前を歩き、私がその後ろをついていく。

庭が大きくて広いため、家のドアにつくまで少し歩かなければならなかった。


それから涼雅くんは、慣れた手つきで家の扉を開ける。
中に入ればそこには───


「涼雅さん、本日もお疲れ様です」

明らかに危険だと思われる男の人とがふたり、玄関前に立っていた。


黒服姿の男の人の頬には、明らかに刃物でついたような傷痕が残っていて。

さらに同じ格好をしているもうひとりは、眼帯をしている。


「ああ。組長は?」
「居間で待っておられます」

「わかった」


涼雅くんは若頭の補佐だと言っていた。
年齢なんて関係ないと。

つまりここでは位が高い人。
彼はまだ高校生だというのに。

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