闇に溺れた天使にキスを。






「ほらよ、これ」


ふたりの時間はあっという間に過ぎて行き。

今日もお兄ちゃんに連絡していないため、あまり長居はできず。


まだ外は明るいけれど、4時を過ぎたところで帰ることにした私。


「あ、ありがとう…ごめんね、わざわざ」


制服は宮橋先生に預けていたけれど、涼雅くんがわざわざ取りに行ってくれたのだ。


「いいよ、拓哉命令だし」
「神田くんが…?」


この後まだ神田くんは仕事があるらしく、寂しいけれど別れたため、今この場にはいない。

代わりに涼雅くんが、この前同様の駅まで送り届けてくれるようだ。


その前に渡されたのは、紙袋に入ってある私の制服。
綺麗に畳まれており、これを着て帰れとのことだった。



「じゃあ、ここの空き部屋使って着替えてこい。
玄関で待ってるから終わったら来いよ」


涼雅くんにそう言われ、首を縦に頷くけれど。
先ほどから何故か目を合わせてくれず、不自然な様子に心が引っかかる。


「……あの、涼雅くん?」

「うるせぇ、拓哉って意外と嫉妬深いんだよ。
面倒なことなる前にさっさと着替えてこい」

「えっ…と、わかった」


嫉妬深い?

もしそうだったとしても、今この状況でそれは関係ない気がするのだけれど。


とにかく涼雅くんに催促された私は、一階の空いている和室を借りて制服に着替えることにした。


襖を閉め、制服を畳の上に置く。

ひと息ついてから着替えようと思い、服に手をかけた途端に先ほどのことが思い出された。


私の首筋をなぞり、反応を見て楽しむ神田くんの姿。
それから───


余裕のない、理性を欠いたような表情で私にキスをしてきたことを。

< 354 / 530 >

この作品をシェア

pagetop