闇に溺れた天使にキスを。
*
「ほらよ、これ」
ふたりの時間はあっという間に過ぎて行き。
今日もお兄ちゃんに連絡していないため、あまり長居はできず。
まだ外は明るいけれど、4時を過ぎたところで帰ることにした私。
「あ、ありがとう…ごめんね、わざわざ」
制服は宮橋先生に預けていたけれど、涼雅くんがわざわざ取りに行ってくれたのだ。
「いいよ、拓哉命令だし」
「神田くんが…?」
この後まだ神田くんは仕事があるらしく、寂しいけれど別れたため、今この場にはいない。
代わりに涼雅くんが、この前同様の駅まで送り届けてくれるようだ。
その前に渡されたのは、紙袋に入ってある私の制服。
綺麗に畳まれており、これを着て帰れとのことだった。
「じゃあ、ここの空き部屋使って着替えてこい。
玄関で待ってるから終わったら来いよ」
涼雅くんにそう言われ、首を縦に頷くけれど。
先ほどから何故か目を合わせてくれず、不自然な様子に心が引っかかる。
「……あの、涼雅くん?」
「うるせぇ、拓哉って意外と嫉妬深いんだよ。
面倒なことなる前にさっさと着替えてこい」
「えっ…と、わかった」
嫉妬深い?
もしそうだったとしても、今この状況でそれは関係ない気がするのだけれど。
とにかく涼雅くんに催促された私は、一階の空いている和室を借りて制服に着替えることにした。
襖を閉め、制服を畳の上に置く。
ひと息ついてから着替えようと思い、服に手をかけた途端に先ほどのことが思い出された。
私の首筋をなぞり、反応を見て楽しむ神田くんの姿。
それから───
余裕のない、理性を欠いたような表情で私にキスをしてきたことを。