闇に溺れた天使にキスを。



それも、ただのキスなんかじゃない。
強引で、舌を絡ませられた甘く大人のキス───


「……っ」

顔がぶわっと熱くなる。
思い出しただけでもこの状態だ。


あの時の私は恥ずかしさよりもずっと、そのキスを欲する気持ちが強くて。

自分の声を抑えようとせず、甘ったるい声が漏れてしまってもなおそのキスに酔いしれていた。


自分じゃないみたいだった。

あの時の私はいったいどんな様子だったのだろう。
神田くんから見てどんな風に映っていたのだろう。


思い出すほど、恥ずかしさが今になって湧き出てきて。


『白野さん、また学校でね』

神田くんと別れる時、彼が満足そうに笑っていたのがまた恥ずかしかった。


その気持ちをかき消すようにして、制服に着替える。



あまり待たせるのもよくないと思い、頑張って気持ちを抑えながら玄関へと向かった。


「やっといつものお前だな」

玄関で涼雅くんの元へ行くなり、意味深なことを言われたため首を傾げる私。


「いつもの、私?」
「中身が地味なくせにあんな格好、するんじゃねぇよ」

「……む」


さっきは目を合わせようとしなかったくせに、今は視線を合わせるなりバカにしたように笑ってきた。

思わずむっとして、涼雅くんを睨みつける。


「私が地味だって知ってるもん…でもいちいち言うことない」


もしかして、神田くんもそう思っていたのかな。

地味なのにあんな大人っぽい格好して、イタイやつだとか思われていたらどうしよう。


涼雅くんに言われるのは平気だったけれど、もし神田くんに言われたら相当ショックを受けたことだろう。

けれど神田くんは優しいから言わないだけで、本当は思っていたんじゃないか。


そう考えると途端に不安が襲い、涼雅くんに言い返す余裕がなくなってしまう。

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