闇に溺れた天使にキスを。
不穏
ドキドキする。
神田くんと会うのが、こんなにもドキドキするだなんて。
───次の日の朝。
いつもの時間に神田くんとホームで合流するため、移動している途中だったけれど。
昨日のことが頭から離れなくて、なかなか足が進まない。
どういう顔をして会えばいいのか、とか。
いつもはどんな風に話していたのか、とか。
考えれば考えるほど、“いつも通り”がわからなくなり、今の状態に至っている。
けれどあと数分で電車が来てしまうため、神田くんと合流しないという選択はなかった。
ようやく重い足を無理矢理速めようとしたその時。
「白野さん」
近くで私の名前を呼ぶ声が聞こえ、胸がドキッと高鳴った。
間違いない。
この優しい声音は神田くんだ。
いつもは振り向いて、おはようと挨拶するのだけれど───
「お、おはよう…ございます」
体は神田くんのほうを向きつつ、顔を背けて思わず敬語になってしまう私。
明らかに不自然な姿。
「……あれ、白野さん?」
もちろん神田くんもすぐ、不思議に思い。
私の名前を呼んで足音が近づく。
「あ、う、電車来るから…並ぼう!」
それから逃げるように背中を向け、いつも電車に乗る時のホームの場所へと移動しようとしたけれど。
神田くんが私の腕を掴み、それを許してくれなかった。
「どうして俺と目を合わせてくれないの?」
少し不満気な声。
拗ねたように聞こえなくもないけれど、掴まれている手の力は結構強い。
「で、電車が来るから…」
「まだ通過待ちだよ」
「並ぶ人多くなっちゃう。だから早く行こう」
見れない、絶対見れない。
思い出してしまう。
神田くんの意地悪で反応を楽しむような手つきに、甘くとろけそうな深いキスを。