闇に溺れた天使にキスを。



駅に着いた頃には、もうだいぶ滅入っていて。


「ごめん、さすがにやりすぎたね」

絶対反省していない神田くんに謝られる。
そのため私は首を横に振り、許さないアピールをした。


「……そこまで怒らないで」
「怒るもん、嫌い」

「俺は白野さんのこと好きだよ」
「……っ」


ストレートなことを言う。
そしてまた私を照れさせるんだ。


「でも残念だな」

熱くなる顔を隠すようにして手であおいでいたら、突然神田くんがそんなことを言うから一瞬不安になって顔を上げる。


すると彼は眉を下げ、本当に残念そうにしていて。


「どうしたの…?」
「だって今日、最後の講習だよ?」


そう、神田くんの言う通り今日は最後の講習の日である。
それは私も知っているけれど、どうして残念なのかがわからない。


逆にこれから本格的な夏休みが始まるって、喜んでもおかしくないのに───


「白野さんとこれから会えなくなるって思うと、悲しい」


すっかり忘れていた。

毎日当たり前のように会っていたから、その事実に今更気づいた私。


神田くんに言われてようやく思い出したのだ。
講習が終わると神田くんに会えなくなる、と。


そんな、嫌だと。
今になって不安と寂しさが私を襲う。



「や、やだ…」

そんなの嫌だと、思わず本音をこぼしてしまう。


「うん、俺も嫌だよ。
だからね、白野さん」

神田くんが目を細めて優しく微笑んだ。


「俺とデートしませんか」

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