闇に溺れた天使にキスを。
「……ああ、未央がかわいすぎる。
もう天使、俺も今日祭り行く」
「はぁ?あんたは友達の家に泊まりに行くんでしょ?」
「え…そうなの?」
最近泊まりが多いお兄ちゃん。
これまでに何度かあったけれど、ここ1週間で3回も友達の家に泊まりに行っているのだ。
「そうだよ。だって誰かといないと俺、かわいい未央が他の男と会ってるって…ひとりで考えないといけねぇとか…そんなの」
「……うん、お兄ちゃん楽しんできてね!」
「ひでぇ!もっと悲しんでくれよ未央」
まさか泊まりが多い理由が私に彼氏ができたから、だなんて。
確かに考えてみれば、私に彼氏ができたとバレてから泊まるようになった気がする。
だから私はなかなかお兄ちゃんに話をすることができなかったのだ。
「おかしい…未央に寂しがってほしい作戦が失敗している……」
「……はぁ、あんたってやつはどうしてそこまで未央に執着しているの?」
何やらブツブツと呟くお兄ちゃんに、お母さんは呆れてばかり。
「執着というか未央への愛なんだよ!
かわいい妹を溺愛して何が悪い」
それに対してお兄ちゃんは、噛み付くように言い返す。
その言葉も呆れるもので。
「もー、お兄ちゃんやめてよ…」
「いいや、やめねぇ!未央が別れるまでやめねぇかんな!」
「…じゃあもういい、そろそろ行く」
「嘘だって未央、ごめんお兄ちゃんが悪かったから。嫌いにはならないでくれ」
別れるだなんて縁起の悪いことを言ってくるから、さすがに私も怒った口調になってしまい。
ようやくお兄ちゃんが反省し、大人しくなってくれた。
「ふふ、珍しく未央が怒ってる。
そんなに彼氏さんが好きなのね」
お母さんには私の気持ちを見透かしているようで、そう言われてしまう。
そのため恥ずかしくなる中、神田くんとの合流時間が刻一刻と近づいていき───
私の最寄り駅まで来てくれる神田くんに会いたい気持ちが勝り、少し早いけれど家を出ることにした。