闇に溺れた天使にキスを。
けれど家を出る瞬間、お兄ちゃんに駅までついていくと言われたため、説得するのに時間がかかり。
逆に家を出る時間が予定より少し遅くなってしまった。
最終的にはお母さんの力を借り、私はひとりで家を出ることに成功。
本当は神田くんに、家まで迎えに行くと言われたけれど断っておいて本当に良かった。
「……やばい、時間がっ…」
時計を確認すると、あと少しで待ち合わせの時間になろうとしていた。
少し駆け足で向かうけれど何度もつまずいてしまい、転びそうになる。
そしてようやく駅が見え、神田くんの姿を探そうとしたけれど───
探す必要なんてなかった。
神田くんの圧倒的な存在感が、探す手間を省き。
彼の姿を捉えた瞬間、息が止まるかと思った。
黒に近い、暗めの紺色をした浴衣を着ている神田くんは、相変わらず大人の色気を放っていて。
改札を通る人たち全員が彼のほうを見ていたから、恨めしく思う。
だって私より先に神田くんの姿を見た人が数多くいるのだ。
こんなくだらないことでやきもちを妬いてしまう私も私だけれど、それぐらい彼の姿には誰もが目を奪われてしまう。
先ほどから神田くんに見惚れ、なかなか彼の元へ行けないでいると───
ふと彼が視線をあげ、少し離れた場所にいる私と目が合ってしまう。
「……あっ」
思わず視線を逸らしそうになる中、神田くんが少し目を見張りその場で固まってしまった。
そのため不審に思った私は、ゆっくりと神田くんのほうへと近づく。