闇に溺れた天使にキスを。



『じゃあすぐ向かう。準備しとけよ』
「……うん、ありがとう」


たった数分の会話だったけれど、胸がいっぱいになる。

神田くんが無事で、今から会える。
急いで涙を拭って準備を始めた。


着替えてからリビングに行くと、もうそこにお兄ちゃんの姿はなく。

自分の部屋に戻ったのかなと思った。


最近お兄ちゃんは夏休みなのに忙しそうで。
本人曰く課題が尋常じゃないほど多いらしい。

だから癒しが欲しいと目を輝かせながら言われるけれど、遠回しに拒否していた。


そもそも拒否したところで、結局お兄ちゃんに抱きつかれたりして捕まってしまうから。

それから少しして、私は家を出た。


この間は緊急事態のため家まで送ってもらったけれど、今日はいつも降ろしてもらうひとつ隣の駅へと向かう。

この3日間、寝不足が続いて体が重かったけれど、今は嘘のように体が軽くて元気だった。


「3日ぶり、だな」

駅に着くと車はすでに停まっていて。

宮木さんと呼ばれている運転手さんと、涼雅くんが車に乗っていた。


心なしか涼雅くんの表情は明るい気がして、安心感が広がる。



「うん…!」

思わず頬が緩んでしまう。
これから神田くんに会えるんだと思うと。


「実は拓哉に黙ってるから。白野が来るってこと」

「え、そうなの…?」
「ああ。言ったら絶対寝ないだろうし」

「寝ない…」
「結構傷が深くて、今は絶対安静中なんだよ」


ドクンと心臓が大きな音を立て、今度は不安が私を襲う。

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