闇に溺れた天使にキスを。
「か、神田く……!?」
今度こそ起きたのだと思ったけれど、抱きしめる力がいつもみたいに優しくない。
まるで抱き枕のようにぎゅっと抱きしめられているため、すぐにいつもと違うと気がついた。
少しの間じっとしていると、抱きしめる力が弱まり、神田くんの小さな寝息が再度聞こえてきて。
どうやら夢の中だというのに、私を抱きしめたらしい。
「好きな女の前ではこんな姿も見せんだな」
その時涼雅くんの興味津々な声が耳に届き、今のこの場には彼もいるのだと思い出した。
そのため慌てて離れようとしたけれど───
「……ん」
ピクッと神田くんが動き、また私をぎゅっと抱きしめ直す。
まるで離れたらダメだと言っているようで。
「これは完全に捕まったな」
涼雅くんは楽しそうに笑っているだけ。
少しくらい手を貸してくれてもいいのに。
「……でも、神田くん大丈夫かな」
「何が?」
「この体勢とか、私を抱きしめるのに傷口が痛まないかなって」
眠っている時はそこまで痛みを感じなかったとしても、起きた瞬間悪化している場合だってある。
「大丈夫だろ、そこまで気にしなくて。
痛かったら起きるだろうし」
「そう、かなぁ」
「それにお前が離れようとしたほうが起きるんじゃねぇの?」
含みのある言い方に少し嫌な予感がした時にはもう遅かった。
「だから起こさないようじっとしとけよ?」
それだけ言い残し、涼雅くんの足音が遠ざかっていく。
「ま、待って…」
「あんま動くと起きるぞ?」
「うっ…」
それを言われてしまえばもう動けない。
神田くんを起こさないため、涼雅くんを呼び止めることを諦めた。
その結果、本当に涼雅くんは部屋を出てしまい、眠っている神田くんとふたりきりになる。