闇に溺れた天使にキスを。



すると神田くんは私を力強く抱きしめてきた。


「……っ、神田くん…?」

「どうしてそんなこと言うの。
別れるなんて言わないで」


少し寂しそうな声に、なんだか悪いことをしてしまったように思えてしまう。


「じゃ、じゃあ安静にしてくれる…?」
「安静にしたら何がある?」

「……え」
「何もないと俺、暇すぎて動いちゃうと思うんだ」


自分の未来を予想する彼。
その時点で安静にする気がないらしい。


「怪我の治りが早くなるよ?」

怪我を治してからのほうが、機敏に動けるはずだ。


怪我が痛んでしまうと動きが鈍くなり、また怪我を負う危険性だってある。


「……あー、そういう感じかぁ」
「え?」

「じゃあわかりやすく言うね。安静にしてたら白野さんから何のご褒美をくれる?」


少し距離を開けて私を見おろす彼の目はキラキラと輝いており、期待の念が込められていた。


「え、と……じゃあ、キスすることを許します」
「え?今はしちゃいけないの?」

「うん、ダメ。怪我が治るまでは」


キスを許すって何だかご褒美じゃない気がするし、そもそも私なんかとキスって嬉しいのかな?と不安に思っていると。


「嫌だ、そんなの不公平だ」


いつもより子供っぽく神田くんが拗ね始める。
心臓に悪いから本当にやめてほしい。


きゅんきゅんしてしまい、たまらなくなるから。



「不公平じゃないもん」

「怪我したらキスダメとか聞いてない、白野さんとキスしないと生きていけない」

「……っ!?」


彼の大胆な言葉に、顔が熱くなる私。
平気でそんなことを言ってくるからずるい。

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