闇に溺れた天使にキスを。
「な、に言ってるの…」
「本音だよ。だからダメとか言わないで」
甘えるような言い方。
神田くんは、かわいく甘えるという技を習得したようで。
「そんなかわいく言ったってダメなものはダメ」
「じゃあ明日から動いてやる」
「それはもっとダメ…!」
「全部ダメって、不公平じゃないかな」
痛いところをついてくる神田くん。
やっぱり彼は自分のペースに持っていくのがうまい。
「うう…じゃあどうすれば安静にしてくれるの?」
ここは私が折れるしかないようで。
「うーん、怪我を治したら俺の言うことを一日中聞いてくれるとか」
「……えっ、と?」
少しどころか、今の言葉に心が引っかかってならない。
つまり───
「神田くんの言うことを絶対聞かないといけないってこと?」
「もちろんだよ。そうでもしないと、楽しみもなくじっとできない」
陽気な声。
神田くんは楽しそうだったけれど私は違う。
「い、嫌です」
「なら交渉決裂だね。明日からまた…」
「そ、それはダメなの…!」
そんなこと言って、結局私に拒否権なんか与えてくれない。
「じゃあどうしようか」
そう言って私をじっと見つめたまま、黙ってしまう彼。
私の返答待ちなようで。
「……っ、うー」
「唸ってちゃわからないよ」
「だって…そっちのほうが不平等……」
「怪我人には優しくしてよ」
ほら、そんなずるいこと言って。
私が折れるしかない状況を作るんだ。