闇に溺れた天使にキスを。



「お前、覚えとけよ」
「いーっだ」

涼雅くんに牙を剥くようにして、喧嘩を売るような表情をしたつもりだったけれど。


「……っ」

何故だか涼雅くんは顔を背けてしまう。
もしかして怖くなったのかなと思ったり、思わなかったり。


よく見れば涼雅くんの頬は赤みを帯びていた。


「え、涼雅く…ふっ」


思わず名前を呼ぼうとすれば、神田くんに口を手で塞がれてしまい話せなくなる。


「白野さんは悪い子だね。
俺の前で堂々と他の男を落とそうとするなんて」

「……?」


よく意味がわからなかったため、顔を上げて神田くんを見つめる。


「……っ、すぐそんな顔して」

よくわからないまま神田くんを見つめていると、ついには呆れたようにため息をついてしまう。


「せっかく久しぶりに会えたんだから、俺以外のやつは視界に入れないで」


少し不機嫌にも見えなくない神田くんの姿。
思わず言葉を失い、呆然としてしまう。

だって今、神田くんはなんて言って───


「そういうことだから、涼雅はもう部屋から出て行ってね」

「うるせぇ、言われなくてもそうする」


一度涼雅くんに鋭い目つきを向けられたため、一瞬怯んでしまつけれど。

負けじと睨み返す。
私は悪いことをしたつもりなんてないからだ。


「……ふはっ、大型動物に怯える猫みてぇだな」

けれど今度は馬鹿にしたように笑われてしまう。


「……む」
「ほら、涼雅に構わない」

喋りたくても神田くんがそれを許してくれず、なんだかふたりに好き勝手されているような気分に陥った。


そんな中、涼雅くんがようやく立ち上がったかと思うと。


「……あ、そういえば華からの伝言があったわ」

突然宮橋先生の名前が出てきて、あからさまに反応してしまう私。

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