闇に溺れた天使にキスを。
さっきまで普通に話していたというのに、どうして彼はいきなりこんなことを言い出したのだろう。
「ずっと、白野さんに連絡するか悩んでてさ。さっき起きた時、白野さんがいて幻覚かと思ったよ」
そう言って、また私の頭を撫で始める神田くん。
彼の動きが落ち着かない。
「幻覚…」
「本当にかわいい寝顔して、天使だって思ったね」
「てっ…!?」
真剣な顔でそんな冗談を言われても反応に困ってしまい、どうすればいいのかわからなくなってしまう。
「そんな無防備な白野さん見てると、複雑に考えてた自分がバカに思えてきたよ」
どきりとした。
今、神田くんが私に何かを伝えようとしてくれている気がして。
ぎゅっと唇を閉じ、神田くんの言葉を待つ。
何か言いたげな顔をしていたから───
「あの日、本当は嬉しかったんだ」
「……え」
視線を少し下げた神田くんは、少しミステリアスな雰囲気へと変わる。
「夏祭りの日。白野さんが必死で俺を助けようとしてくれて」
私はじっと神田くんを見つめるけれど、彼が私のほうを向く気配はない。
「だって自分の浴衣を犠牲にしてまで、俺の止血を優先してくれた。ごめんね、今度浴衣買いに行こう」
「……ううん、私が勝手にやったことだから気にしないで」
あの時の選択に後悔はしていない。
むしろそれで助かったのなら、浴衣に感謝すべきだとすら思う。
「気にするよ。すごく白野さんに似合っていたから。ごめんね」
「謝らなくていいの。だって命は何しても買えないんだから、浴衣くらい安いものだよ」
だからそこまで申し訳なさそうにしないでほしかった。