闇に溺れた天使にキスを。
神田くんは周りを優先しすぎている。
せめてもう少しくらい、自分を大切にしてほしい。
「……ほら、やっぱり」
「え…」
静かに口を開いた神田くんは、視線を合わせようとせず。
今もずっと下を向いている。
「───怖い」
ドクンと、心臓が大きな音を立てた。
あまりにも真剣な声で話す彼が放った『怖い』という短い単語は、私の動悸を激しくさせた。
怖い…?
神田くんはいったい何を恐れているの?
わからなくて、不意に彼の頬に手を伸ばした。
するとようやく視線を合わせてくれたけれど、その瞳は戸惑いの色を表していた。
「優しくされるたび、自分が自分じゃなくなる気がして怖いんだ」
多分神田くん本人もよくわかっていないのだろう、自分自身に戸惑いながら胸の内を明かしてくれている様子で。
「優しくされるのが怖いの…?」
「……ううん、違う。優しくされるのは怖くないし、ただ慣れないだけ。
でも自分が制御できなくなる気がして怖かったから、この間先に白野さんには帰ってもらったんだ」
3日前のことを思い出す。
神田くんの怪我は相当ひどく深いものだったというのに、彼は私を優先して先に家へと帰された。
「もちろん危ないって理由もあったけど、一番は怖かったから。あれ以上白野さんといると自分が壊れそうで」
つまり神田くんが今言いたいのは、優しくされると自分が壊れてしまうということ?
よく意味がわからなくて、首を傾げたい気持ちに駆られるけれど。
彼の瞳があまりにも揺らぎ、弱っているように見えたから顔に出さないよう努力する。
「だから俺って相当わがままな人間だと思う」
「え…神田くんが?」
神田くんがわがままだなんて、何かの間違いだと思った。
きっとわがままとは程遠い人だと思ったから。