闇に溺れた天使にキスを。
異変
夏休みが明け、始業式であるこの日。
「白野さん」
いつもの乗り換えホームで、大好きな人が私の名前を呼んだ。
「……っ、神田くん…!」
嬉しくて思わず頬が緩み、神田くんに駆け寄る。
実は神田くんの家に泊まってから、一度も彼に会えないでいたのだ。
そのため今日が久しぶりに彼に会える日で、嬉しくてたまらない。
「久しぶりに会って早々、その笑顔はなしなんじゃない?」
「へ……」
「もー、なんでもない」
彼は少し不服そうに話し、私の頭を撫でた。
「前髪、切った?」
少し髪が崩れてしまったため、手ぐしで整えていると、彼は前髪を切ったことに気づいてくれたようで。
「うん、切ったんだ。一昨日くらいに。
いつもより神田くんの姿がはっきり見えるや」
前髪はこまめに切るタイプではないため、アイロンで巻いたり横に流したりすることが多い。
今回も久しぶりに切ったのだ。
「俺も白野さんの表情がはっきり見えるよ。
……かわいい、幼くなったね」
じっと見つめられたかと思うと、神田くんに小さく笑われてしまう。
バカにされたようで、なんだか不満だ。
「どうせ子供顔ですよーっだ」
少し嫌味っぽく言ってやるけれど、神田くんはさらに目を細めて笑ってくる。
「そんなかわいく拗ねたって無意味なのに。前髪を切っても切らなくても、どんな白野さんでも俺は好きだよ」
「……っ」
好きだなんてさらっと言い、私を照れさせてくる神田くんは相変わらずだ。