闇に溺れた天使にキスを。
「お前が望むなら考えてもやらねぇけど」
ふと、涼雅くんの声のトーンが落ちた気がして。
「どうしても辛くて忘れてぇなら、もう何も考えられないくらいめちゃくちゃにしてやることもできる」
スッと彼の手が伸び、私の頬に優しく触れた。
その瞳は優しげだったけれど、どのか危険を潜めているようで。
私に迷いなんてなく、首を横に振った。
「そんなのやだ…」
辛く、忘れたいと思うけれど。
そんな方法は選びたくない。
「涼雅くんがそばにいてくれるだけで十分なの……辛い気持ちが和らいでるもん。だから───」
それは私に限らず、涼雅くんだって。
「涼雅くんもそんなこと言わないで。
虚しくなるだけだよ」
頬に添えられた涼雅くんの手の上から、自分の手を重ねる。
そんな些細な動作だったけれど、彼の瞳は十分に揺らいだ。
「……見かけによらず、強いんだな」
切なげな表情は、どこか苦しそうにも見える。
「強くなんてないよ」
「いや、強いよ。今日あったことから逃げてねぇから」
「……逃げてるよ、私。
今日だって神田くんから」
「けどお前は拓哉のせいにしてないだろ」
「え……」
その時、頬に触れられている手が離れて。
「俺だったら拓哉恨んで怒って、周りに逃げる」
ぎゅっと自分の手を握る涼雅くんは、もう私と目を合わせようとはしない。
「今日、怖かっただろ。
殺されそうになって」
もう一度掘り返そうとするわけではなく、まるで私の気持ちがわかるというような言い方。