闇に溺れた天使にキスを。



「周りに助けなんかいねぇ中、力の敵わねぇ相手に首絞められんだ。抵抗しても無駄、泡吹いて気絶しようものなら水かけられて腹殴られる」


その瞳に光は宿っておらず、生々しく語る涼雅くん。
今彼は、自分の話をしているのかもしれない───

ただ黙って、彼の話を聞く。


「相手は楽しそうに笑って、人間の心なんてない。
けど人前ではそれが嘘のように優しくされる。

だから誰も気づかねぇ」



ソファにもたれかかり、天井を見上げる涼雅くん。

光が当たっている銀色の髪だけがキラキラ反射して輝いていた。



「子供ながらに怖かったよな。終わりなんて一切見えねぇから。死と隣り合わせの今よりずっと怖い」



彼は小さく笑ったけれど、強がっているようにも思えて。

いつもより小さく感じた。


「だから俺はお前の気持ちが少しわかる。
あの状況を見た時、正直思い出したから」


じっと涼雅くんから目が離せないでいると、彼はまたこちらを向いた。

今度はまだ赤くなっている首に触れられる。


「なぁ、言い訳して逃げる気はねぇの?」


ドキッと胸が一度高鳴った。
その瞳に捕らえられたかのようで、動けなくなる。


私なんかよりずっと怖い思いをしていた彼は、こうして辛い経験を話してまで寄り添おうとしてくれる。

心が揺らがないはずがなかった。



ゆっくりと涼雅くんが近づいてきて、いつのまにか後頭部に手がまわされる。

きっと目の前の彼に甘えてしまえば楽で。
罪悪感は全部神田くんのせいにして───

< 466 / 530 >

この作品をシェア

pagetop