闇に溺れた天使にキスを。
それから近くにあったショッピングモールのトイレで着替え、家に帰った私。
「……ただいま」
恐る恐る家の中に入ると、お兄ちゃんの靴があって一瞬どきりとしてしまった。
これでバレたら質問攻めされるかもしれない、なんて思いながらもリビングに行くと───
「……っ」
リビングのソファにお兄ちゃんが座っており、思わず声が出そうになった。
必死で声を抑え、通り過ぎようとしたけれど。
ふとリビングの電気がつけられていないことに気づき、違和感を覚えた。
まだ外は明るいため、そこまで気にならなかったけれど電気をつけないだなんて珍しい。
なんだか気になってお兄ちゃんのほうに行くと───
「……えっ、お兄ちゃん…?」
綺麗な横顔が目に入り、思わず話しかけてしまう。
お兄ちゃんの頬には涙が伝っており、悲しげな表情をしていたからだ。
「……っ、未央。
帰ってきてたのか」
お兄ちゃんはハッと我に返ったようで、涙はなかったかのように明るい笑顔を浮かべた。
その手には何か紙を持っていたけれど、私からは見えない。
「また泊まりに行ってたんだって?お兄ちゃん悲しくて恋しくて、たまらなかったんだぞ」
その紙をテーブルの上に置かれていた茶色の封筒に戻し、ズボンのポケットに乱暴に入れたお兄ちゃんはゆっくりと立ち上がり。
私に近づいてきたかと思えば、そのままぎゅっと抱きしめられる。
けれど抱きしめ方がいつもより弱く、力ない。
そのため抵抗することができずに戸惑う自分がいて。
「……なぁ、未央」
その時ぽつりとお兄ちゃんが呟くように私の名前を呼んだ。
「どうしたの…?」
「……もし俺と未央が」
いったい何を言われるのか。
まったく想像できなくて、お兄ちゃんの言葉を待っていたけれど───
「……結婚できたら死ぬまで一緒に暮らせるのにな」
「……へ」
少し距離を開け、私を見つめるお兄ちゃんはもういつも通りの姿。
にこにこ明るく笑い、シスコンモードが発動している。