闇に溺れた天使にキスを。
前までは神田くんとの関係を怪しまれ、何度も迫られていたけれど。
彼との関わりがなくなった途端から、沙月ちゃんも神田くんの話をしなくなったからだ。
だからきっと気にしてくれているのだろう。
「そんな…私に惚れる人なんていないよ」
「バカおっしゃい。男女限らず多くの人たちが未央に落ちてるから」
呆れた目で見られるけれど、そんなことあり得るはずがない。
「ただこの鈍感純粋人間を扱うのがみんな怖いんだろうね」
「あ、悪口だっ…」
「悪口じゃなくて事実ね」
悪口じゃなくて事実って、もっとひどい気がするのは気のせいだろうか。
「まあ早く未央にも春がくるといいね。
案外早く恋する日が来るかもよ?」
そう言われてどきりとした。
私はもうすでに恋をしているから。
ここまで本気で好きと思えるのは、神田くんが初めてで。
ちらっと神田くんの席を見ると、彼はすでに座っていて。
今はぼーっと窓の外を見つめていた。
その姿でさえ絵になって、ドキドキして。
同時に胸が苦しくなった。
こっち見てくれないかなって。
また優しい笑顔を向けてほしい。
私に触れてほしい。
甘くて、とろけてしまうんじゃないかと本気で思うこともあるけれど。
今はそれぐらいの甘さが欲しかった。
ねぇ、神田くんは今何を考えているの───
「今日は転校生の紹介あるから今すぐ席につけー」
無意識のうちに神田くんのほうに視線を向けていると、担任の先生が教室に入ってきて。
早速“転校生”というワードを出すため、さらに教室内がざわざわと騒がしくなる。