闇に溺れた天使にキスを。
「神田くんは、私じゃなしに」
「あの時は冷静にならないといけなかったんだ」
「……へ」
ふと、声のトーンが落ちて遮るように話す神田くん。
「冷静…」
「涼雅や宮木さんから連絡がきて、俺は真っ先に華さんの居場所を探した。絶対に捕らえて、タダじゃ済ませないって気持ちで」
少しゾクッとした。
その言葉を神田くんが口にすると、何倍も怖く思えたから。
「白野さんの首を絞めて殺そうとした。
そんなこと、誰が許すと思う?」
ぎゅっと、私の手を握る彼の手の力が強められた。
「……本当に?」
本当に神田くんは、真っ先に私の心配をしてくれた?
不安になって聞き返すと、彼は迷わず頷いた。
「絶対に許さないよ、俺の白野さんに手を出したやつは。だから今回も華さんを見つけ出して、同じように怖い思いをさせてやろうって本気で思ってた。
でも───」
そこまで言って口を閉じ、間を空ける神田くん。
待っていた次の言葉は───
「華さんを見つけた瞬間、冷静さを取り戻したんだ」
さっきの言葉とは反対の意にも捉えられるようなもので。
「保健室にいたんだ」
「え…」
「華さんは、学校の保健室にいた。隅の方にうずくまりながら座って、泣きながら全身を震わせてた」
思い出すように話す神田くん。
じゃあもしかして、私の病室に来る前からすでに宮橋先生と会っていた…?
「……誰もいないのに、何度も『ごめんなさい』って連呼して。華さんは白野さんに対して謝ってた。
それから自分の手を切り落とそうとしたのかわからないけど、ハサミで何度も切りつけてた両手は血だらけになって…相当悔いていたんだ」
私だけが死ぬ思いをして、苦しめられていたと思っていた。
けれど神田くんの話を聞いて、その思い込みが一瞬のうちにして崩れ落ちる。