闇に溺れた天使にキスを。
「明らかに様子がおかしかったから、さすがの俺も冷静になって華さんに話しかけた。
そしたら泣きながら土下座して、また謝って。
白い床も血で染まっていて正気じゃなかった」
そこで思い出す、“洗脳”という言葉。
じゃあ宮橋先生は本当に───
「今は俺の家で保護してるけど、油断していたら自分で死のうとする状態なんだ。だから見張りをつけて、死なないようにして。
でも生きていることが本人にとって一番辛いんだと思う」
顔を歪める神田くんは、苦しそうだった。
私は一切周りが見えていなかったのだと思い知らされる。
「そんな…じゃあ、私は何も知らないまま…」
「ううん、白野さんは被害者なんだ。何も思い詰める必要はない。全部、俺の責任だから」
宮橋先生のことを何も知らないまま、神田くんは彼女を選んだのだと思っていた。
私は捨てられたんだって。
けれどそれはただの思い込みに過ぎなくて、宮橋先生も神田くんも相当苦しんでいて───
「神田くんのほうが悪くないっ…私、勝手に捨てられたんだって思って……宮橋先生のほうが辛い状況だったのに」
「そんなの比べないでいい。俺がそれに気づいて防げばよかったんだ。結局俺は何ひとつ守れなかった」
違う、神田くんは悪くないのに。
首を横に振って否定するけれど、彼はどこか悔しそうにして自分を責め続ける。
「だから今度こそ守り抜きたい。そうするには“敵の核”を見つけ出さないといけなかった」
神田くんが私の頬に手を添え、じっと真剣な眼差しを向けられる。
「敵の、核…」
「敵の目的は俺の命を奪うことだと思ってた。実際それは夏祭りで実行された。でも俺が殺せないと思ったんだろう、今度は白野さん自身を引き離そうとした。
つまり敵の本当の目的は多分───」
ドクンと、心臓が嫌な音を立てた。
「白野さんを俺から離れさせることなんだ」
神田くんははっきりと、私の名前を口にした。