闇に溺れた天使にキスを。



「今まで我慢させてごめんね」
「……ううん、大丈夫。私も誤解してごめんなさい」

「白野さんは謝らなくていいの」
「やだ、謝るもん」


神田くんのこと、信じずに疑ってしまったから。


「謝ったらキスするよ」
「謝ったらキスしてくれるの?」

「……やっぱりなしで」
「あっ、ずるい」


まだ甘いのが欲しいのに。

欲しい時に限ってくれない神田くんはやっぱりずるい人。


「今日の白野さん、やけに積極的だね」
「我慢してたんだもん。たくさん甘いのほしい」

「キス以上のことは?」
「……っ、それはダメ」


さすがにそこまで心の準備はできていない。


「えー、ケチだ」
「まだ早いもん」

「それならキスで我慢だね」
「……ん」


そう言って神田くんは、また私に優しいキスを落として。


「きっともうすぐ敵が姿現すだろうから…学校外ではもう少しの間まだ一緒にいられないんだ」

「学校内では?」
「空き教室でふたりだけの時間を作ろう」


甘い声で誘う彼。
私は迷わず頷いた。

空き教室での秘密の時間。
それは私にとって嬉しい以外の何物でもない。


「神田くんと、ふたりで過ごすの」
「誰にも邪魔させないようにね」

「うんっ…ずっとふたりでいる」
「それはダメだよ」

「むっ、どうして」


せっかく嬉しかったのに、拒否されてムッとしてしまう私。


「学校内だけで我慢できなくなったら終わりだからね。今までの苦労が無になるよ」

「むー…じゃあ限られた時間の中でずっと甘やかしてもらうの」

「……っ、甘やかしてほしいの?」
「神田くんにたくさん甘える」


ぎゅっと抱きついて、神田くんから離れてやらないぞという意思表示をする。

そんな私に呆れたのか、ため息をつく神田くんだったけれど───


今この瞬間が本当に幸せで、やっぱり神田くんじゃないとダメなのだと改めて強く思った。

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