闇に溺れた天使にキスを。
「……うっ」
信じられなくて、信じたくなくて。
目から大量の涙が溢れ出る。
それと同時に胸が苦しくなって、気持ち悪くなって。
吐き気すら催してしまうほど。
「未央、大丈夫か?
ちょっと重い話だったな」
そんな私を見てお兄ちゃんは優しく語りかけ、背中を撫でてくれるけれど。
それすらも気持ち悪く思えてしまう。
今までは安心できたはずなのに。
「そんな汚い手で白野さんに触らないでくれるかな?」
「……は?」
神田くんの言葉に反応したお兄ちゃんは、背中をさする手を止め彼を睨みつける。
「お前、この状況わかって言ってんのか。
その様子じゃ武器ひとつ持ってねぇみたいだしな」
「……そうだよ、今の俺は生身の人間。
でも思ってることを口にして何が悪い?」
その時、カチャッという効果音が聞こえたかと思うと。
乾いた音が響いて。
今確かにお兄ちゃんは───
引き金を引いて撃ったのだ。
けれど神田くんに命中することはなく、彼の横ギリギリを通り抜けたのか、頬が少し切れて血が流れていた。
かすっただけでこの威力。
急所に当たれば命はないとすぐ理解できる。
「次は当てるからな」
「……腕は確かみたいだね」
「さっきまで戦ってたやつらと一緒にするなよ」
「うん、じゃあ───」
撃たれたというのに。
普通なら怖くなって腰が抜けてもおかしくないのに。
神田くんは今も笑っていて。
「次はどこ狙う?」
それも楽しそうな笑みだったから、私だけでなくお兄ちゃんもビクッと肩が跳ねていた。