闇に溺れた天使にキスを。
「もういいから…やめてよ……」
「嘘でも白野さんにそんなこと言われて離れられるくらいなら、今ここで死んだほうがマシだ。
俺の気持ちを舐めないでもらえるかな」
私を責めるような話し方は冷たく、怖いけれど。
苦しいんでしょう?
今だって少し顔を歪めて、痛いんでしょう?
「……死なれるくらいなら、離れて生きてくれてたほうがいい…」
「生き方ぐらい自分で決めるよ。
……龍崎、次は俺のどこ狙おうか」
お兄ちゃんを睨みつける瞳は鋭く、凍てついてしまうほどで。
さすがのお兄ちゃんも、目の前にいる彼のことを引いている。
怯えている。
異常だと。
神田くんは、異常だと───
「……っ、気持ち悪いんだよお前!」
「お願い撃たないで!!」
悲痛な叫びも届かず、もう一度撃ってしまうお兄ちゃん。
嫌だと思い、必死でロープを解こうとするけれどそれは叶わなくて。
涙が邪魔をし、神田くんの姿が見えないでいると───
ふと横に影がかかったような気がした。
咄嗟に振り向いたその時、いつのまにか背後にいた傷を負う涼雅くんがいて───
彼の姿を捉えた瞬間に聞こえた鈍い音。
少しの静寂の後。
「……っ、お前ら…ふざけん、な」
途切れ途切れに話すお兄ちゃんの声が聞こえたかと思えば、コンクリートの上に倒れ込んだ。
頭からは血が流れており、気絶したようで。
「ふざけてんのはどっちだよ。
せこい真似しやがって」
涼雅くんはお兄ちゃんの手から離れた拳銃を手に持ったかと思うと、大きく叫んだ。
「……おい!早くこいつ捕らえろ!!」
外で待ち構えていたのか、開けられたシャッターから何人もの人が中に入ってくる。
その人たちは神田くんを通り過ぎ、真っ先にこちらへとやってくる。
「……涼雅くん、神田くんがっ…お願い、死んじゃうよ!」
「わかってる。今紐解いてんだから動くな」
「先に神田くんのとこ行って…」
「バカか、命懸けでお前守ったんだから先にお前が行くべきだろ」
そう言い終えたと同時に、両手足のロープを解いてくれた涼雅くん。
「……っ、神田くん!」
うまく足に力が入らず、途中転びそうになりながらも視界に映る神田くんに駆け寄った。