闇に溺れた天使にキスを。
じっと涙ぐみながらも神田くんを睨む。
すると彼の瞳が一瞬揺らいだ気がして。
「……わがままになっていいんだよ、神田くんは大人じゃないもん、まだ子供なんだもん……たまには子供らしいところ見せていいんだよ」
そっと手を伸ばし、神田くんの頬に触れる。
「甘え方を知らなくても、今の感情全部ぶつければいいから……本音話してよ」
無理してるでしょう?
こんなにも弱ってる姿になっているんだから。
「ねぇ、神田くんは何を恐れてるの?
自分に素直になるのが怖い?」
神田くんから目を逸らさずにじっと見つめていると、うっすらと開いている彼の目から一筋の涙が頬を伝った。
「……ほら、本当は辛いんでしょう?」
「……っ、俺泣いて…」
自分が泣いているだなんて気づいてなかったようで、咄嗟に自分の目元に手を添えていた。
「……心では騙していても、体は正直なんだよ…もう素直になろうよ」
「……っ」
次の瞬間、神田くんが上体を起こしたかと思うと私にぎゅっと抱きついてきて。
その手や肩は震えており、これが今まで隠してきた“神田くんの姿”なのだと思った。
こんな風になるまで我慢して。
本当はまだ我慢しようとしていて。
「白野、さ…」
弱々しい声。
だんだんと抱きつく力が弱まっていき、ぐったりと私にもたれかかる形へと変わる。
代わりに私が支えるようにして、彼の背中に手をまわす。
「ほんとは、気を抜いてたら……今にも、意識が飛びそうで…」
声までも震え、私に本音を零す彼。
やっぱり無理していたというのに、どうしてすぐ言おうとしなかったのだ。
「それで?その後もちゃんと言わないとわからないよ」
神田くんの口からはっきり言わないと、宮木さんは動いてくれない。
「───助けて…」
悲痛な叫びにも聞こえるその言葉は、きっと神田くんの心の叫びなのだろう。
ずっとずっとひとりで抱え込んで、無理して。
そんな彼に私は何もしてあげることができなかった。
けれどせめて、せめて神田くんのそばに、心までもそばに寄り添いたいのだと思い───
助手席に座る涼雅くんが振り向き、嬉しそうに笑った。
「おい、聞いたか宮木」
「……確かにお聞きしました」
「行き先変更だ、まず病院に向かえ。
手術の準備も整えておくよう連絡入れておくから」
「かしこまりました」
その時ミラー越しに見えた宮木さんも───
嬉しそうに笑みを浮かべていた。