闇に溺れた天使にキスを。






緊張する。

空き教室の前にやってきたのはいいけれど、閉められたドアになかなか手をかけることができない。


あれだけ周りの目を気にして、神田くんと関わらないようにしていたのに。

今更一緒に食べようだなんて、都合が良すぎる。


都合がいい女だと思われたらどうしようと考えると、不安になり一歩前に進めない。


それでも、ひとりは嫌だ。

口下手なくせに、ひとりになるのは嫌だなんて本当にわがまま。


諦めて、もう一度教室に戻ろうかと考えたけれど、あの騒がしい空間にひとりでいる。

そう想像するだけで泣きそうだ。


意を決して、ドアに手をかける。
そして恐る恐るドアを開ければ───


神田くんが窓際の席に座り、窓の外を眺めていた。
見るからにお弁当を食べている様子はない。

むしろ神田くんの座っている席にお弁当箱はなく、真ん中の席にそれと水筒が置かれていた。

< 94 / 530 >

この作品をシェア

pagetop