闇に溺れた天使にキスを。
*
緊張する。
空き教室の前にやってきたのはいいけれど、閉められたドアになかなか手をかけることができない。
あれだけ周りの目を気にして、神田くんと関わらないようにしていたのに。
今更一緒に食べようだなんて、都合が良すぎる。
都合がいい女だと思われたらどうしようと考えると、不安になり一歩前に進めない。
それでも、ひとりは嫌だ。
口下手なくせに、ひとりになるのは嫌だなんて本当にわがまま。
諦めて、もう一度教室に戻ろうかと考えたけれど、あの騒がしい空間にひとりでいる。
そう想像するだけで泣きそうだ。
意を決して、ドアに手をかける。
そして恐る恐るドアを開ければ───
神田くんが窓際の席に座り、窓の外を眺めていた。
見るからにお弁当を食べている様子はない。
むしろ神田くんの座っている席にお弁当箱はなく、真ん中の席にそれと水筒が置かれていた。