アナログ恋愛
「…よくできました。」
苦心しながらも問題を解き、「あってる?」と尋ねるように小野チャンの顔色を窺うと、小野チャンはにっこり笑った。
「及川、席戻っていいぞ。」
そう言った小野チャンは、すっと目をそらす。
小野チャンにとって、あたしはたくさんいる生徒の中の1人。…しかも、今は授業中。
あたしだけを見るわけじゃないのは、当然のこと。
…それなのに、なぜか胸が痛かった。
「…もうあと5分だから今日は終わりにしようか。」
その言葉に生徒たちは喜ぶ。
ざわざわと騒ぎ始める生徒たちを尻目に、小野チャンはいつの間にか教科書を片づけ始めて。
あたしだけが、取り残されたように その場に立っていた。
「――及川?」
怪訝そうな声に、ハッと我に返る。
「…おまえ今日変だぞ?」
「そんなことないよ、」
「…疲れてるんじゃないか?保健室、行く?」
あたしの「そんなことないよ」は、小野チャンにとって納得のいくものではなかったらしい。
「大丈夫だから。」
もうやめてほしい。
これ以上、あたしは嘘つけないから。
だって、体は平気なんだもん。
心が痛いだけ。
そんなこと、小野チャンに言えるわけないよ。
「…ならいいけど。あんまり無理すんなよ。」
小野チャンが横を通り過ぎる。
もしかしたら頭をくしゃって撫でてくれるんじゃないかな?なんて少しだけ期待したけど、小野チャンの大きな手があたしに触れることはなかった。