アナログ恋愛
父親
ピンポーン
「おばぁちゃーーーーん!!」
「いらっしゃい、梢。」
にこにことあたしを迎えてくれる、大好きなおばあちゃん。
心臓が悪くてペースメーカーを入れているけど、今は元気。
定期的に行く検診でも、問題はないと聞いている。
あたしの土曜日の日課は、このおばあちゃんの家に来る事から始まるのだ。
おばあちゃんは、あたしの家から3駅向こうの家に住んでいる。
―…たった1人で。
以前、「一緒に暮らそう」と言ったことがあるけど、おばあちゃんは困った顔して笑うだけだった。
後でお母さんに聞いたら、おばあちゃんがこの家を離れたがらないのは、数年前に亡くなったおじいちゃんと暮らした思い出がいっぱい詰まっているからなんだって。
それを知ったとき、あたしは自分の発言を後悔した。
知らなかったとはいえ、無神経なことを言ってしまった。
そしてあたしは決めたのだ。
できるだけ、この家に来よう、と。
おじいちゃんの思い出がいっぱいあっても、やっぱり1人でずっと過ごすのは寂しいと思うから。
「梢元気そうでよかったわ。洋子さんも元気?」
「うん!お母さんも元気だよ。」
洋子さん、というのはうちのお母さん。
おばあちゃんから見れば、『お嫁さん』にあたる。
その夫、つまりおばあちゃんの息子であるお父さんは、10年前事故で亡くなった。
…あたしが週末2日間ともおばあちゃんの家で過ごすことができないのは、これが理由。
うちは母子家庭なのだ。
毎日毎日あたしを育てるために必死に働いてくれるお母さんとは、あまりゆっくりと一緒に過ごすことができない。
そして、お母さんの休みは土日。
――土曜日はおばあちゃんと、日曜日はお母さんと過ごすことが、今では当たり前になって。
それは おばあちゃんとお母さんのため、そしてなにより自分のために、あたしが決めたことだった。