アナログ恋愛
「あ、おはよー梢。」
「咲、おはよ。」
教室に着くと、いつも通り、咲があたしの隣の席に座っていて。
咲も、前はあたしと同じ『ギリギリ組』だったけど、今では全然遅刻しない。
その理由は、1年の冬からつきあい始めた『宏光くん』
朝練に行く彼と一緒に来るから、咲は遅刻しなくなったのだ。
…この2人、お互いがお互いをすごく大切に想ってるのがわかるから、実は密かに憧れてる。
「あ!そうそう、さっき松谷先輩来てたみたいだよ。」
「へ?」
思いもよらない言葉に、机から出しかけていた教科書が落ちる。
もー…何やってんの?と呟きながら拾ってくれる咲にお礼を言い、その教科書を受け取った。
「なんかね、直接は見てないんだけどさ…」
――咲の話だと、こうだ。
咲がちょうどトイレに行っている間に、松谷先輩がうちのクラスに来た。
いなかったのに なんでわかったのか、というと、戻ってきたときに女の子たちが騒いでいたから。
どうやら誰かを探していたようで キョロキョロと教室内を見渡していたのだが、見つからなかったのか、すぐに去ったらしい。
「梢のこと探しに来たんじゃないの?」
「…そうかもね。」
―あたしはケータイを持っていない。
周りが思っているほど、本人的には特別困っていないのだけれど、こういうときだけは少し困る。
『んー…じゃあ とりあえず家電でいいや。
学校では…緊急の時は放送で呼び出しでもするし。』
…確か、先輩はそう言っていたと思う。
たぶん、昼休みか放課後にでも放送で呼び出されることになるんだろう。
少し恥ずかしいけれど、仕方ない。
そのときのクラスの反応を想像しつつ、あたしは意識を手放した―…。