アナログ恋愛
―…結局、逃げてしまった。
先輩からも、リエさんからも。
あの後すぐに走って、教室を飛び出した あたし。
完成してたにも関わらず、プリント出しに行ってないし、リハも すっぽかした。
…鞄も置いたまま帰ってきちゃったし。
――けれど、そんなことはどうでもいい。
先輩の傷ついた顔が、頭から離れない。
制服を着替えることもせず、ベッドに転ぶ。
目をつぶっても、体を丸めても、胸の痛みは ごまかせなくて。
ただ、先輩のことを考えた。
――いつもニコニコしてて 何考えてるかわかんない、って思ってた。
最初は、本当に人懐っこい人に見えた。
…でも、違う。
本当は、心の中ではちゃんと笑ってない気がする。
あの穏やかな あったかい笑顔は、先輩の悲しい気持ちを隠すための鎧みたいなものなのかもしれない。
「先輩、ずっと苦しかったのかな…。」
小さく呟いた言葉は むなしく響いて。
そのあとには、また1人きりの部屋に静寂が訪れた。
それを壊したのは――
ピンポーン
なんとも間抜けな、呼び鈴の音。