アナログ恋愛



あたしが尋ねるよりも先に、小野チャンは口を開いた。


「ほら、これ。」


そう言って差し出されたのは、教室に置いてきてしまったはずの、見慣れた鞄。
…あぁ、これを持ってきてくれたのか、と ようやく理解した。


「なんでいるの?」なんて失礼なこと聞く前にわかってよかった。


小さく「ありがとう」と呟いて、鞄を受け取る。
いつも持っているはずなのに、なぜかズッシリ重く感じた。




「おまえ、鞄置いて帰るほどの急用って何なんだよ。」

「…え?」

「ん?急用だったんだろ?松谷が言ってたぞ。
及川が急用できて帰ったから、鞄届けてくれないか、って。」


…わざわざ、小野チャンに頼んでくれたの?
「急用できて帰った」なんて、嘘までついて。

本当のこと言ったら、あたしが今日手伝いやらなかったのも、プリント出してないのも怒られると思ったから…?
だから、嘘ついてくれたの…?


あたし、先輩に酷いことしたのに―。


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