アナログ恋愛
「そういえば、今日電話あったわよ。」
夕飯を終えて、リビングでコーヒーを飲んでいたお母さんが唐突に言った。
「…え?」
一瞬、頭をよぎったのは、先輩の顔。
…どうしよう。
謝るって決めたのに、急に不安になってきた。
「――小野先生から。」
「へ?」
ほっとしたような、がっかりしたような。
間抜けな声を出した後、複雑な表情をしたあたしを見て、お母さんが笑う。
「あんた何したのかと思ったけど、『昨日少し元気がないように見えたんですが、様子はどうですか?』って。」
「…あ。」
小野チャン、心配してくれてたんだ。
昨日、あたしの態度がおかしかったから。
「…いい先生ね。」
「うん…。」
自然と、顔がゆるんだのが自分でもわかった。
…ほんと、小野チャンらしい。
かなり意地悪だけど、
結構適当だけど、
いつだって、あたしたち生徒のこと見てくれてる。
「…お母さん、心配かけてごめん。」
「うん。」
「もう大丈夫だから、ありがとうね。」
「そう、良かった。」
お母さんも、心配してくれてたんだから。
ちゃんと謝って、お礼言って。
…そしたら、次は 小野チャンだ。
「電話かけてくる」と言い残して、リビングを出た。