オープン・ステージ
1-1
 春休みが明けたら大学二年生になる。

 今日はアルバイトが朝から午後三時まで入っていた。まだ早い時間だし、いつもの場所へ寄っていこうか。

 ふと空を見上げると、空模様が少し怪しい。春雷が来るかもしれない。私は自転車のペダルを強く踏みしめた。

 バイト先の制服のブラウスに薄手のカーディガンだけでは、今日は少し寒かったみたいだ。三月の服装は考えるのが難しい。


 田舎の公道から外れて横道へ入る。この時季はここの桜並木が本当に綺麗で、天気が良ければゆっくりと歩きたいところだ。


 ドォーン……。


 遠雷だ。私は更に自転車のスピードを上げる。

 桜並木を抜け、狭い踏み切りを渡ると、周りが田んぼばかりの住宅地へ入る。そこからまた横道へ入って真っ直ぐ走った。

 その間、風は徐々に強くなり、空は黒い雲に覆われていく。


「これはマジでやばいやつ!」


 やがて大粒の雨が、体中を叩くように降ってきた。本降りになる前に辿り着かなければ。

 私は足がパンパンになりそうな勢いでペダルを漕いだ。今日はデニムのパンツを穿いていたけれど、もし今のスピードで転んでしまったら、結構な怪我をすると思う。


 目的地に着くと自転車を乱暴に停めた。今は自転車が倒れてしまっても気にしない。
 私はバッグを引っ掴むと、いつものプレハブ小屋へと走った。

 プレハブ小屋の裏から表へと回り込むと、入り口のドアの前に、若い男性が立っていた。本らしき物を読んでいた彼の視線が、すっとこちらへ向けられる。


 そして――、


「あ、お帰り」


 え――?


 自分に向けられた眼差しに、どきりとしてしまった。
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