オープン・ステージ
3-5
「俊太……?」
「……。お前とは、あいつよりもずっと長く一緒に居たのにな。……あいつよりも、俺の方がお前のことをよく知ってるのに……」
俊太の腕が、ゆっくりと私を抱き寄せた。
「……!」
「俺は、お前のそばに居すぎたのか?」
私の体が強張ってしまったのが伝わったのか、俊太はすぐに私から体を離した。
その代わりに、切れ長で綺麗な瞳が私を見つめる。
「俺はな、これからもずっと、お前と一緒に居たいんだよ」
俊太の瞳の奥が寂しく揺れる。
こんな俊太も、私は初めて見た。
「俺は、……お前が好きだ。もうずっと、ずっと前から」
俊太の言葉に、私の視線は宙を彷徨い、少し離れた床へと落ちる。
「高校でお前と離れてからも、俺は誰にも惹かれなかった。お前に会いたくて、放課後は部活にも入らずに、ここに来られる日は必ず寄ってから帰った。偶然を装いたくて、LINEとか意地でも使わずに、ずっと通ってたんだ」
知らなかった。
いつもここで会っても、俊太は大した会話もせずに漫画を読んでいたから、こっちは邪魔をしないように、静かに窓の外を見ていたことが多かった。
日によっては、「そろそろ帰るか」しか言葉を聞かなかった事だってあったはずだ。
「お前に変な奴が近付いて来ようもんなら、容赦なく蹴散らしてやろうかとも思ってた」
その声音は、冗談にも本気にもとれるような響きだった。
そして一呼吸おいて、俊太はまた話し始める。
「今年の春になって、ホシケイが現れた」
「俊太は、佳くんが嫌いなの?」
自然と俊太へ視線が戻る。
俊太は静かに、首を横に振った。
「いや、あいつはいい奴だよ。俺とは気が合うし、一緒に居ても気が楽だ。あいつとは、出会えて良かったと思ってる」
言っている事とは裏腹に、その表情は冴えない。
「だから今、つらいんだ……」
「どうして?」
私の言葉に、俊太は苦笑した。
「あー……、そうだ、お前の悩みを聞いてたんだよな。悪かった」
そう言って、俊太は話題を戻してしまう。
「そうだな。おばさんを説得するには、どうしたらいいんだろうな。おじさんは何て言ってるんだ?」
「お父さんはいつも、黙って聞いてるだけだよ」
「そうか。おじさんは物静かな人だからな」
父は私のことをどう思っているのだろうか。やはり、母と同じ考えなのだろうか。
私は深い溜め息をついた。
「お前はどうするつもりなんだ? いつかはこの町から出ていくのか?」
「……そうしたいと思ってる。親に反対されたままでも、もう構わない。自分の人生だし、もう子供じゃないもの。自分で決めて、動いていきたい」
そうか、と言って、俊太は何かを思ったように少し黙ったけれど、すぐに口を開いた。
「もしお前の夢が叶ったら、なかなかこの町には帰ってこられないんだろうな……」
「そうかもね……」
「お前はそれでも平気なのか」
「分からない」
「俺は嫌だよ。お前と離れるのは」
「俊太……」
「お前が近くに居ないなんて、考えられない」
「……。お前とは、あいつよりもずっと長く一緒に居たのにな。……あいつよりも、俺の方がお前のことをよく知ってるのに……」
俊太の腕が、ゆっくりと私を抱き寄せた。
「……!」
「俺は、お前のそばに居すぎたのか?」
私の体が強張ってしまったのが伝わったのか、俊太はすぐに私から体を離した。
その代わりに、切れ長で綺麗な瞳が私を見つめる。
「俺はな、これからもずっと、お前と一緒に居たいんだよ」
俊太の瞳の奥が寂しく揺れる。
こんな俊太も、私は初めて見た。
「俺は、……お前が好きだ。もうずっと、ずっと前から」
俊太の言葉に、私の視線は宙を彷徨い、少し離れた床へと落ちる。
「高校でお前と離れてからも、俺は誰にも惹かれなかった。お前に会いたくて、放課後は部活にも入らずに、ここに来られる日は必ず寄ってから帰った。偶然を装いたくて、LINEとか意地でも使わずに、ずっと通ってたんだ」
知らなかった。
いつもここで会っても、俊太は大した会話もせずに漫画を読んでいたから、こっちは邪魔をしないように、静かに窓の外を見ていたことが多かった。
日によっては、「そろそろ帰るか」しか言葉を聞かなかった事だってあったはずだ。
「お前に変な奴が近付いて来ようもんなら、容赦なく蹴散らしてやろうかとも思ってた」
その声音は、冗談にも本気にもとれるような響きだった。
そして一呼吸おいて、俊太はまた話し始める。
「今年の春になって、ホシケイが現れた」
「俊太は、佳くんが嫌いなの?」
自然と俊太へ視線が戻る。
俊太は静かに、首を横に振った。
「いや、あいつはいい奴だよ。俺とは気が合うし、一緒に居ても気が楽だ。あいつとは、出会えて良かったと思ってる」
言っている事とは裏腹に、その表情は冴えない。
「だから今、つらいんだ……」
「どうして?」
私の言葉に、俊太は苦笑した。
「あー……、そうだ、お前の悩みを聞いてたんだよな。悪かった」
そう言って、俊太は話題を戻してしまう。
「そうだな。おばさんを説得するには、どうしたらいいんだろうな。おじさんは何て言ってるんだ?」
「お父さんはいつも、黙って聞いてるだけだよ」
「そうか。おじさんは物静かな人だからな」
父は私のことをどう思っているのだろうか。やはり、母と同じ考えなのだろうか。
私は深い溜め息をついた。
「お前はどうするつもりなんだ? いつかはこの町から出ていくのか?」
「……そうしたいと思ってる。親に反対されたままでも、もう構わない。自分の人生だし、もう子供じゃないもの。自分で決めて、動いていきたい」
そうか、と言って、俊太は何かを思ったように少し黙ったけれど、すぐに口を開いた。
「もしお前の夢が叶ったら、なかなかこの町には帰ってこられないんだろうな……」
「そうかもね……」
「お前はそれでも平気なのか」
「分からない」
「俺は嫌だよ。お前と離れるのは」
「俊太……」
「お前が近くに居ないなんて、考えられない」