桜花一片に願いを
中編
ホテルの中庭で少し休憩し、私は会場に戻った。午後は自分の担当に関係が深い分野の発表を中心に聴き、あっという間に土曜日の日程は終了した。
いつもだったら学会の後は、知り合いの医師に同行して飲み会に参加させてもらうことが多い。でも今日はそんな気分じゃないし、そもそも参加を決めたのが直前だったので、誰にも連絡していない。
(お腹空いたな。お昼、カロリーメイトだけだったもんな。何か適当に食べて帰ろう)
駅に向かう途中で、渋い喫茶店に入った。店の前に「ナポリタンあります」という看板が出ていて、惹きつけられてしまった。四人掛けのテーブル席が六つだけの狭い店内には、先客が一人――あれ。
「夏目先生」
「瑠璃さん?」
お互いに気付いたのは、ほぼ同時だった。
いつもだったら学会の後は、知り合いの医師に同行して飲み会に参加させてもらうことが多い。でも今日はそんな気分じゃないし、そもそも参加を決めたのが直前だったので、誰にも連絡していない。
(お腹空いたな。お昼、カロリーメイトだけだったもんな。何か適当に食べて帰ろう)
駅に向かう途中で、渋い喫茶店に入った。店の前に「ナポリタンあります」という看板が出ていて、惹きつけられてしまった。四人掛けのテーブル席が六つだけの狭い店内には、先客が一人――あれ。
「夏目先生」
「瑠璃さん?」
お互いに気付いたのは、ほぼ同時だった。