桜花一片に願いを
 どちらからともなく、「せっかくだから一緒に」ということになり、私達は同じテーブルに向かい合って座った。十分ほど待つと、料理が運ばれてきた。二人ともナポリタン。ケチャップの匂いが食欲をそそる。

 店内にはBGMが流れていて、ポルノグラフィティの『アゲハ蝶』、米津玄師の『灰色と青』と続いている。

 ナポリタンを食べながら、ぽつぽつと会話は続く。

「脈絡のない選曲だね。店主の趣味かな」

「そうかも。……こちらでの仕事はどうですか?」

 夏目先生は、この春から京都市内の病院に出向中だ。

「東京とほとんど同じ。相変わらず拘束時間は長いし」

「そうですか。お疲れ様です」

 ソーセージとピーマンを咀嚼しながら話題を探していると、次の曲に変わった。今朝聴いたあの曲だ。思わず聴き入ってしまう。

「片思いの歌だよね、これ」

 夏目先生は淡々と言った。

「そうですか? 私、失恋の歌だと思ってました」

 だって二番目の歌詞が特に、夏目先生と花音の別れにかぶるから。

「そう? 僕には、女友達に叶わない恋をしている男の歌に聴こえる。まあ、付き合ってても片思い、みたいなこともあるか」

 夏目先生が寂しげに笑った。胸がギュッとなった。

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